晴耕雨筆

Magic: the Gatheringの様々な楽しさをあなたへ。

【SS】イーヴォ島の風

「お前の心は愚かな心配事で一杯になっている。」

 

満月に照らされた、高貴な姿。

 

「それでは風が運んでくるかすかな囁きは聴こえまい。」

 

風読みのスフィンクス、サイラスはそう言った。

 

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「偉大なる識者、サイラス様。」

 

彼の前には村のマーフォークたちがひれ伏している。

 

「言わずとも悩みを――」

「無論だ。」

 

長老は震えた声で続けた。

 

「では我々はどうすれば良いのでしょうか。」

「消えた人々は、恐らく海で眠っている。」

 

小さな真実ですら、人々はざわめき、動揺してしまう。

 

「……死んではいないのですか?」

 

絞り出されたような声に、一縷の望みを求めているのを感じる。

男衆が突如消えようと海と風には関係無いが、村にとっては死活問題だった。

 

「風は、そう答えている。」

 

囁きは実際そう告げていた。

 

「どのようなことでも致します。」

 

残された者たちが叫ぶ。

 

「彼らを取り戻す方法をお教えください!」

 

スフィンクスは溜息をつき、言った。

 

「奇妙な、細長い小片のような生命が島に出没している。」

「それを捕らえ、生け贄に捧げるのだ。」

 

 

 

「これで良かったのか?」

 

村人たちが去り、サイラスは囁いた。

 

「彼らが死んでしまうかもしれない。」

「どちらにせよ、そのままでは死ぬでしょう。」

 

風が答えた。

 

「我々もあの生命に興味があります。」

「もし、生け贄が捧げられた場合。」

 

それが死んでいようと、この者たちは満足するだろうか。

 

「失われた男どもは、どうするつもりだ。」

 

少し間があり、また風が吹いた。

 

「次は、鯨を狩るよう啓示を。」

 

それを先に言ってやれば早かっただろうに。

鯨の中に閉じ込められているのは、間違いないだろう。

 

「順番が大切なのです。」

 

心が読まれたかのように、返事がきた。

 

「貴方様の威光は、島中に影響しております。」

「慎重に、慎重に……」

 

海風に乗せて、囁かれる"声"。

 

「"風の囁き"にお従いください。」

 

風上には、常に奴らがいる。

 

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